勝負
今、至る所で道路工事が行われている。
車道だけにとどまらず歩道にも“工事”という名の思い付き作業の魔の手が及ぶ。
昨晩はお好み焼きを友人の家でふるまうべくキャベツ三玉、長芋二本、牛乳一本、お好み焼き粉三袋、等々たくさんの荷物をキャリーケースに乗せて運んだのであるが、突然昨日始まった歩道の掘り起こしのせいでキャリーケースを持ち上げて運ぶという地獄のような移動を経験した。おかげさまで朝起きたら首が寝違えたみたいになっていて下を向くのがつらい。
そんな感じで計画性の無い工事があらゆる場所で行われているので不便極まりないのである。主要道路も遠慮なく日中に行われるので渋滞の嵐である。
さて、今日もバスに乗り揺られていると急に減速し始めた。外を見ると前方にいる警察官が何かを手にして叫んでいる。何を手にしているのか目を凝らすが見えない。彼の横を通り過ぎたところで手にしている物を確認できた。
“停”と書かれたプラスチック製であろうと思われる物体。
あれ、なんかこの形、既視感があるで。どっかで見たことある!と思い出していたら閃いた。アレである。テレビの情報番組とかに番宣でやってきた芸能人たちが〇か✖かで質問に答える時のアレである。『もし人生をやり直すことができたら俳優にはなっていない?』のような質問をされ、ジャン!という音とともに出すアレ。〇✖無しでそのまま答えればよくない?とも思うのであるが、こちらもなんとなく答えを予想してしまったりして、視聴者を楽しませてくれる不思議な力をもっているアレ。
アレの“停”バージョンである。警察官のおっちゃんはアレを手にして通りかかるすべての車を減速させていた。
そんなんで勝負するん?ちっこすぎてぜんぜん見えてへんで。
もっと遠くからでも確認できる他のものがなかったのであろうか。身一つとあの小さなしゃもじのような物体でバスやトラックやらと勝負する警察。芸能人でもないのにあんなん持たされて交通整理である。
興味深すぎて食い気味に窓から後方を観察すると、不思議なことに通りかかる車たちは従順に“停”しゃもじに従っていたのであった。
あのカタチ、意外と人をひきつける力があるのかもしれない。なんの役にも立たないと思わせておいて、人を立ち止まらせてしまう不思議な魅力を持っているのである。
停の他に違うバージョンはないのだろうか。停と二択にするとすれば何の字がいいだろうか?
と、しょうもないことを考えて迷惑な工事渋滞をやり過ごしたりするのである。